こんにちは。今日は「請負契約」について話したいと思う。
昔、フリーランスとして色々な会社で働いていたときに、とある会社の重役の方にこんなことを言われた。
重役:「なぜ君は請負ではなく、準委任契約で仕事をしているんだ?真っ当にビジネスをしたいなら時間を切り売りするのではなく、請負で仕事をするべきだろう」
まず、この会話についての感想を話す前に、ここで用語について分かりやすく解説しよう。
請負契約と準委任契約の違い
・請負契約
成果物を完成させて納品することで、報酬が支払われる契約
例:「Aというシステムを作って納品しました」→「100万」
・準委任契約
専門家として、業務を代わりに遂行する契約
例:「時給1万でシステムの開発を100時間行いました」→「100万」
今回も失敗談としてお話をするが、現在は「準委任契約」でしか仕事は受けないが、私は元々「請負契約」で仕事をしていた。では、なぜ準委任契約にしたのか、重役との会話を続けよう。
重役:「請負契約は仕事を完成して初めて報酬が支払われる、まさに”プロ”としての契約だ。君がやっていることはただのアルバイトにすぎない」
全国のアルバイトの方に謝罪をしてほしい、彼らの中に”プロ”の覚悟を持って働いている人も大勢いる、という食道まで出てきた言葉をぐっと飲みこみつつ、私は重役の話を黙ってきいた。
では、寸劇はここまでにしてなぜ請負契約が危険なのかを順番に解説していこう。
請負契約のリスク(受注者側)
・”完成するまで”報酬は支払われない
これは大きなプロジェクトになればなるほど受注者側にとっては厳しい。仮に1年かかるプロジェクトの場合、報酬が支払われるのは最短で1年後だ。つまりその間の生活費を貯金から支払うか、借金をするかの選択を迫られる。体力がないフリーランスや中小企業では、この時点で退場を余儀なくされる。そのため小規模の案件しか受注することができない。
・仕様変更が発生して工数が増えた場合もほとんどの場合、報酬内の対応となる
システム開発において仕様変更が発生しないプロジェクトはほとんど存在しない。悪質な発注者の場合は、見積り段階では最小構成で見積をさせて、後からどんどん仕様を追加してくる。なぜなら見積り時の料金以上を支払わなくていいからだ。パワーバランスを考えると受注者は立場が弱いので、ほぼ泣き寝入りになってしまう。
・見積りが甘いと赤字になる
システム開発経験が長い私でも見積りという作業はとても大変だ。特に長期間のプロジェクトにおいて見積り通りに仕事が終わることはほとんどない。多くの場合は見積りよりもオーバーする。私が新人時代に「その見積りを4倍にしてお客様に提出しろ」と上司に言われて4倍にして提出したら、驚いたことにほとんどそれくらいに収まった。当時の上司からすると、私の見積りの精度の甘さを見抜いておられたのだろう。
・不具合が発生した場合に損害賠償を請求される
もし読者諸君の周りに「私が開発したシステムは不具合を出したことがない」と公言する輩を見かけたら、すぐに警察に通報したほうがいい。そいつは詐欺師だ。一説によるとソースコードを1000行書くと、不具合が1~20件生まれると言われている。不具合は隣人であり、害虫(バグ)である。だが、悲しい事に請負契約はそんな当たり前に発生するはずの不具合を発生を理由に損害賠償をされてしまう。悪い発注者なら、適当な不具合に対して大げさに騒ぎ、報酬の支払いを拒否することもある(タダ働きをさせるために)
請負契約のリスク(発注者側)
・”完成を約束する契約”なので、指揮命令の権利がまったくない
あくまで請負契約は「完成を約束する」契約だ。つまり途中の作業については一切契約に含まれない。受注者がライセンス契約のあるソースコードをコピーして作ろうが、他の作品の絵をトレースして作品を仕上げてこようが、そこは一切問えない。
・ 要求仕様を明確に定義する必要がある
要求仕様を明確に定義するというのは本当に難しい作業である。もしあなたが「家を建ててほしい」と依頼をして完成したものが「人間サイズの犬小屋風の家」だったとしても「家」は依頼通りに完成しているので報酬を支払わなければならない。あくまで説明責任は発注者にある。
・途中解約をすると損害賠償を相手に支払わなければならない
これは長期のプロジェクトにおいて、特に影響が大きい。例えば1年かかるプロジェクトの最初の1ヵ月くらいで進捗が遅れて、すでに予定通りに完成が難しくなったと仮定する。この場合、途中で契約を解除した場合、発注者に違約金が発生する。つまり、すでに事故がほぼ確定している案件をただ黙って見守るか、多額の費用をすぐに支払って別の業者に依頼するかの選択を迫られる。
読者諸君は既に感じたと思うが、想像以上に双方にとってデメリットが大きい。特に「長期プロジェクト」「体力がないフリーランスや中小企業」「曖昧な指示しかできない発注者」にとっては致命的なリスクを抱える。
準委任契約とは
準委任契約についても説明しようと思ったが、文章が長くなってきたのでまた別の機会に話すとして、簡潔に説明する。
「準委任契約とは”プロ”として発注者の利益となるために、代わりに働くことである」
この1文ですべて説明がつく。
元々は士業(弁護士や税理士など)が委任契約(法律行為を扱う場合は”準委任”ではなく”委任”と呼ぶ)で業務を遂行しているのでイメージがしやすいだろう。彼らは専門家として顧客の代わりに働いてくれる”プロ”である。
まとめ:ソフトウェア開発には準委任契約を推奨
つまり、私の結論としては”プロ”として双方の利益を考えるのであれば「準委任契約」を締結するべきである。
長年色々なプロジェクトを見てきたが「請負契約」で進んでいたプロジェクトのほとんどは、失敗して双方が責任を擦り付け合う泥沼の争いになることが多く、「準委任契約」は問題なく進行しているケースが多かった。
読者諸君の中にシステム開発を受注、または発注することを検討しているなら、契約はぜひ「準委任契約」で進めることを推奨しよう。
ちなみに重役への私の返答は、
「そうなんですね。勉強になります」
と笑顔で会話を流した。口にしかけた嫌味を飲み込んで、腹を壊したという話は聞いたことがないからね。
また次回お会いしよう。